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東広島市の戸建て団地で実践 “近助”システムが命を救う

【大地震万が一の備えと行動】#3

 昨年7月5日の夜、東京・赤坂の議員宿舎では、安倍首相ら与党の議員が50人ほど集まり、どんちゃん騒ぎを繰り広げていた。その前日、気象庁は「8日ごろまで大雨が続く恐れがある」と発表。宴会当日の午後も緊急記者会見を開き、「非常に激しい雨が数日間降り続き、記録的な大雨となる恐れがある」と最大級の警告を発していたにもかかわらず、飲んだくれていたのだ。

 そして気象庁の警告通りに西日本を豪雨が直撃、土石流が発生して多くの命が失われた。

 当時、緊張感が欠如した安倍政権の態度とともに注目されたのが、東広島市の洋国団地である。7日午前5時半ごろに発生した土石流で49戸の家屋のうち20戸ほどがダメージを受けたが、98人の住民は全員無事、死者はもちろん1人のけが人も出さなかった。

 この戸建ての団地の取り組みがいかに画期的だったかは、国土交通省が作成した資料「平成30年7月豪雨における土砂災害の被害実態」で「避難行動により命を守った事例」と紹介しているほどだ。

 団地があるエリアは、もともと市のハザードマップで全域が「土石流被害想定箇所」とされていた。そのため、自治役員会が防災マニュアルや防災マップを作成し、自治会費で購入した防災ラジオを全戸に配布、年2回の避難訓練も実施していたという。

■自力で逃げられない高齢者も助かる

 現地を何度も視察した防災システム研究所の所長で防災・危機管理アドバイザーの山村武彦氏は、こう言う。

「中国のことわざに『遠水は近火を救わず』というのがありますが、災害時に被災者を助けられるのは、その近くにいる人です。私は公助や共助ではなく『近助』を提唱していますが、いつ来るのか分からない行政の支援を待つよりも隣近所で助け合うのが大事なのです。そのために洋国団地では、自治会の役員さんたちがリーダーシップを取り、自主防衛組織をつくっていました。緊急時にみんなで助け合う仕組みができていたのです。

 そのひとつが『お助け担当者』の制度で、自力で避難するのが難しい高齢者を助ける担当を事前に決めていて、支援を受ける側からも連絡ができるようになっていました。しかも、4キロ先の保健福祉センターまで避難する実践的な訓練も重ねていたのです。行政は大きな網をかけて大規模な避難勧告を出しますが、地震や災害のリスクは本来、家ごとに違うもの。個別の対策が必要なのです」

 実際に豪雨発生当時も、土石流発生の前日から自主避難をしたり、「担当者」に連絡して車で迎えに来てもらったりすることで、難を逃れた高齢者がいた。

 資料では「平素から団地内で避難時の想定をしていたこと、コミュニケーションを取っていたことが、いざというときの素早い避難につながったのではないか」という住民の声も紹介している。

 これは地震発生時も同じだ。災害が起こる前に近所で話し合い、いざというときにどうするか、本気の備えをしておく必要がある。もしも田舎に高齢の両親が暮らしているのなら、帰省した折にでも近所の人たちに声を掛けて、「近助」の仕組みをつくるべきだ。都会に住みながら、遠くに暮らす両親を守れるわけではない。実家のことは地元にお願いするしかないのだ。